デス・オーバチュア
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星を創る者(スターメイカー)。 ディーンの星斬剣を始めとする星界最強の武具を生み出した究極の職人(マイスター)。 星核(スターコア)と呼ばれる星界の希少物質から、剣や槍などの武具を創り出せる唯一人の男。 彼が星核から創った武具は、十神剣のような特種能力(属性)こそ持たないが、純粋な破壊力(パワー)だけなら、十神剣や異界竜の牙や爪すら凌駕する。 特に星斬剣、星貫槍、星砕甲の三傑(三つ)は星界に留まらず、この世(全世界)で最強の武器と呼んでも過言ではなかった。 太陽が中天に昇る頃、スターメイカーが一人森を歩いている。 「これはまた……見事な……」 スターメイカーは歩みを止めた。 「氷漬けの悪魔(お姫様)ですね……」 氷棺に閉じ込められたカーディナルを見つけたからである。 「最強の炎の悪魔であるあなたを凍らせるとは……地上には余程の化け物がいるようですね……」 スターメイカーは氷棺に手をあてただけで、この氷の『全て』を見抜いた。 「永久凍土の氷と言えど、あなたなら今日中には解かせるでしょう」 本来なら未来永劫溶けるはずのないこの氷棺も、カーディナルになら一日もあれば内側から溶かせるだろう。 「まあ、本来なら凍ることもなかったはずなんですけどね……」 この氷は自然現象や物理法則に属するものではなく、特別な『力』による『現象』だ。 それが解った上で、本来ならカーディナルには通用しなかったとスターメイカーは断言する。 「抵抗しようと『想う』暇さえない程に速かったのか、予想外なことに気を取られでもしたのか……いずれにしろまだまだ未熟ですね」 全力で抵抗しようと想うだけで、本来ならカーディナルは抗うことができたのだ。 抵抗する『意志』がなければ、どんなに強い『抵抗力』も働かない。 カーディナルが不覚を取ったのは馬鹿らしい程に単純な法則(理屈)だった。 「キャッハハハハハハハハハハッ! 未熟未熟ゥゥ〜!」 突然、笑い声と共に何かが降下してくる。 「おやおや……」 スターメイカーは流れるように後方へと後退した。 降り立つは鮮烈な青(セルリアンブルー)の悪魔。 悪魔の両手に握られた二丁の黒き自動拳銃(オートマチック)の銃口が炎を迸らせた。 黒き拳銃の総弾数は15発、二丁合わせて30発の弾丸が全て、悪魔が大地に着地するまでの間に氷棺へと叩き込まれる。 「アハハハハハッ! 本当に大した氷ね、9mm程度じゃ傷一つ付かない……」 青い悪魔は、パッと手品のように両手から拳銃を掻き消した。 「じゃあ……」 右手だけを氷棺に向けて突きだすと、今度は超大型の銀色の回転式拳銃が出現する。 同じ回転式拳銃でも、スターメイカーの右腰にある物とはあまりにも『格』が違った。 45口径と50口径という差だけでなく、単純に巨大さ重量感が段違いである。 「これならどう!」 銃声というより大砲のような爆音をあげて弾丸が撃ち出された。 「……呆れた……地上最強の破壊力を誇るこの銃ですらまったく通用しないなんて……」 「相変わらずの大鑑巨砲主義ですね……なんですか、その化け物銃は?」 スターメイカーは、青い悪魔にもう発砲の意志がないことを確信し声をかける。 「遅れてますね、シリウス様は……これが現在において地上最強の破壊力を誇る拳銃です」 「ああ、向こう側……裏世界の最新の拳銃ですね。本当に相変わらず、新しい物好きな人ですね……」 「だって、基本的に最新の物ほど破壊力があるでしょう? ああ、でも、どんなに最新式で破壊力があっても、趣味に合わない銃はいらないわよ」 青い悪魔は、超大型回転式拳銃を消すと、代わりに先程使っていた黒の自動拳銃を右手に出現させる。 「破壊力だけ追い求めたら、オートだって9mmじゃなくて50口径口のを使うしね……」 そう言うと、再び自動拳銃を手品のように掻き消した。 「ああ、でもでも、50口径強装(マグナム)弾は確かに惹かれるわよね……でも、マグナムはやっぱリボルバー……総段数を5発に落としてまで破壊力を追い求めるその姿勢が……」 「はいはい、そう言った話はまた今度暇な時にゆっくりつきあいますよ」 銃器(趣味)の話がどこまでも続きそうなので、スターメイカーは話を強制的に打ち切らせる。 「そう? 話はまだまだこれからなのに……残念ねェ〜」 青い悪魔は本当に残念そうに呟くと、再び出現させた超大型回転式拳銃を連続で四回発砲した。 顔(視線)はスターメイカーに向けたまま、背後の氷棺に向かって……。 放たれた弾丸はもはや爆発と呼ぶべき破壊力を発揮するが、氷棺は一欠片も砕けることなく健在だった。 「また無茶な撃ち方を……」 「ウフッ……」 青い悪魔は超大型回転式拳銃をスイングアウトさせると、排莢し、スピードローダーを使って全弾丸を一気に再装填する。 「クックックッ、アハハハハハハハハハハハハハハッ!」 そして振り返ると同時に、全弾丸を一気に氷棺に発砲した。 「……ふう、スーッとした」 青い悪魔は心底満ち足りた表情を浮かべる。 「何か彼女に怨みでもあるんですが? 青の悪魔騎士セルリアン・ブルーギル……」 スターメイカーは初めて青い悪魔の『名』を呼んだ。 悪魔騎士、それはたった四人の悪魔だけに与えられた称号。 その称号を持つ者は、煉獄の炎帝カーディナル、奈落の暴君ダルク・ハーケンといった錚々たる悪魔(顔ぶれ)ばかりだった。 「まさか〜、これでもカーディナル様のことは実の姉の如く慕っているのよ〜」 セルリアン・ブルーギルは、幼女のように悪戯っぽく、熟女のように妖艶に嗤う。 「…………」 スターメイカーは、ずり落ちていた色眼鏡を人差し指で押し上げて、改めてセルリアン・ブルーギルを見つめ直した。 青空色(セルリアンブルー)の悪魔……その異名が現す通り、彼女を構成する色は青。 瞳も髪も、肌以外の全てが鮮やかで強烈な青色で、纏う衣装も青を基調とした物だ。 黒いリボンで結い上げられた、肩上までのショートツインテール。 首には、中央に薔薇モチーフのある黒レース付き青のエナメルチョーカーを填めていた。 光沢のある濃い青服は、豊満な乳房が全て零れ落ちる程に胸部が全開で、スカート部分は左右に尻尾のように分かれて秘所を晒している。 つまり、本来最優先に隠すべき胸や秘所が丸出しで、コルセットのように腹部と半袖のように両肩だけを青服が覆っているのだ。 乳房と秘所を晒していると言っても、ビスチェ(肩紐のないウエストまでのブラジャー)とショーツのような黒レースが最低限の部分だけは一応隠している。 要は丸出しが、裸から下着に代わっただけだ。 服と同じ青のオーバーニーソックスを黒のガーターベルトが釣り上げている。 両手首には、チョーカーと同じように中央に薔薇の咲いた黒レース付き青のエナメルブレスが填められており、指先の爪は髪や瞳と同じ鮮やかな青色をしていた。 ……とここまでなら人間のようだが、彼女の背には蝙蝠のような青い翼が、お尻には矢のような細長い青色の尻尾が生えている。 人のイメージする典型的な悪魔の翼と尻尾だ。 「それと、地上(此処)では、メルティ・マリア……メルマリアと呼んでね〜♪」 無邪気でありながら、どこか艶やかさ感じさせる笑顔。 セルリアン・ブルーギル改め自称メルマリアは、十四〜十五歳ぐらいの幼い容姿をしていながら、その肉体(胸やお尻)はとても豊満で、熟女の如き過剰な色気を放っていた。 「ああ、やはり召喚されたのですか……そして、契約者からこの世界での拠り所(名)を授かったと……」 「そう、お父様に付けて貰ったの〜♪ とても良い名前でしょう? アタシにピッタリな可憐で清純な名前〜♪」 「メルティ……溶かす? 溶け合うような? まあ、甘くとろけるような聖母……とでもいったところですか? 確かにあなたに相応しい名ですね」 「でしょでしょ♪ セルリアンより何倍も可愛くて素敵な名前でしょう〜♪」 メルマリアはキャッキャッと子供のようにはしゃぐ。 「否定はしませんが……セルリアンも恐れ多くも悪魔王様直々に名付けられた立派な御名前ではないですか?」 「う〜、だってさ……青いから空の青(セルリアンブルー)なんてネーミングが安易すぎない? 娘はカーディナル(赤)だから、養女はセルリアン(青)でいいや……て手抜きを感じずにはいられない名だわっ!」 「まあ……まんまセルリアンブルーに始まり、セルリアン・ブルーとか、セル・リアンとか、かなり頭を悩ませてましたよ、当時のあの方は……」 スターメイカーはフォローになっているのか、いないのか解らない名付け親の苦労?を語った。 「どうあってもセルリアンは使いたかったのね……」 「姉妹として育てるおつもりでしたから、名前に実子(姉)との共通性を持たせたかったんじゃないですか? 深紅色(カーディナル)と同じく色を意味する名前(言葉)……」 「……カーディナル様との共通性ね……」 メルマリアに実の親は存在しない。 彼女は人間の邪念、欲望が寄り固まって無(ゼロ)から生まれた純粋の悪魔だ。 故に、母と呼べる存在は育て親の悪魔王、姉と呼べる存在は義姉のカーディナルだけである。 「まあ、カーディナル様と別け隔てなく可愛がってくれたことは感謝してるけど……それとこれ(ネーミングセンスの無さ)は話が別よ!」 「まあ、そうですね……」 スターメイカーも別にそこ(ネーミングセンスの無さ)の部分は否定するつもりはないようだ。 「あ、いけない、任務に戻らないと……」 「任務? ああ、お父様とやら(マスター)の使いの最中でしたか?」 「うん、そう。えっと、監視対象が二人に増えちゃったからな……この場合どっちを追えばいいのかしら……?」 「監視?」 「やっぱほっとくと拙いのは向こうね……じゃあ、シリウス様、アタシ今はガルディアとかいう北の地に居るから、良かったら遊びに来てね〜♪」 メルマリアは、小柄な可愛い翼を羽ばたかせて青い空へと消えていった。 太陽が沈み往く黄昏時、ポツンと氷棺と切り株が一つだけ存在している場所に、タキシードの青年が姿を現した。 厳密には青年ではなく男装の麗人。 ガルディア十三騎が一人、幸運のフォートランだ。 「…………」 フォートランは橙色(オレンジ)の瞳で、カーディナル入り氷棺をじっと見つめる。 「文字通り命を削る絶技か……あまり死に急ぐな……」 彼(彼女)?には、この氷棺を創った人物が誰なのかはっきりと解っていた。 「…………」 フォートランは視線を氷棺から切り株に移す。 切り株の上には、細長い布袋と、一輪の青い薔薇が置かれていた。 「……アイナ……」 フォートランは青薔薇を手に取ると、この薔薇と長袋を置いていった人物の名を口にする。 「…………」 暫し香りを楽しんだ後、青薔薇をタキシードの左胸に差す。 「もう少し待っていてくれてもいいものを……顔をあわせたくないということか……」 フォートランは長袋を手に取ると、結び目を解いた。 中から出てきたのは、柄も鍔も鞘も全てが白く標準より少し長めの極東刀。 「不知火(しらぬい)……確かに受け取った……」 フォートランはゆっくりと刀を鞘から抜き放った。 「…………」 いつの間にか、彼のタキシードが黒から白に変わっている。 これが彼の本来の衣装(色)、愛刀が戻ったことにより己の真の姿を取り戻したのだ。 「君が止まっていた二年間、俺の時もまた止まっていた……」 不知火の刀身に青い炎が宿る。 聖なる青でも、明るい青でもない、寒色……文字通り寒さを感じさせる暗く冷たい青の炎だ。 「……だが、時は再び動き出した」 シュッという小さな音がしたかと思うと、刀身から青炎が消える。 「……先延ばしにしていたエンディングを迎えるために……」 フォートランが不知火を鞘へと収めた瞬間、氷棺が粉々に砕け散り、カーディナルが飛び出した。 「はあはあ……貴様は……?」 氷に生命力を吸われでもしたのか、解放されたカーディナルはかなり弱っており、呼吸も荒い。 「…………」 フォートランはカーディナルを一瞥したが何も言わず、再び前を向くとゆっくりと歩きだした。 「待て……我でも一度凍らされてしまったら……なかなか溶かせなかった氷を……貴様どうやって……?」 「……不知火は静かなる炎……あらゆる力を打ち消し無へと帰す静炎(せいえん)……力が消えればただの永久凍土の氷……最弱の俺でもそれくらいなら斬るのは容易い……」 「全てを打ち消すだと!?」 氷棺に宿った魔力(想い)は、カーディナルの炎(想い)を持ってしても抗うことが難しかった程である。 それを刀の一振りで容易く消し去ったなど……とても信じられないことだった。 「…………」 カーディナルが驚愕している間にも、フォートランはどんどん遠ざかっていく。 「待てと言うに……貴様の名は!? いや、それよりも貴様、我をコケにした女を知っているな!?」 一見言いがかりのようだが、カーディナルの直感は当たっていた。 「俺はフォートラン……ガルディア十三騎最弱の男だ……」 「……ガルディア十三騎……最弱!?」 ガルディア十三騎という存在はカーディナルも知っていた、驚いたのは彼が最弱だということ。 「俺の力も、不知火の力も、どちらも攻撃力は限りなく零(ゼロ)に等しい……故に最弱……」 「攻撃力が0……?」 「君をコケにした少女の名はアイナ……アイナリクス・オルサ・マグヌス・ガルディア……ガルディア皇国第二皇女……この世で唯一人、俺を狂わす女だ……」 フォートランは自嘲的な微笑を口元に浮かべた。 「狂わす……?」 「…………」 それ以上は何も語らず、フォートランは去っていく。 「ふん、おかしな男だ……いや、女か?」 カーディナルはフォートランと反対の方向に歩きだした。 アイナとかいう女には、いずれコケにされた『借り』を返さなければならない。 「ガルディアか、覚えておこう……だが、今は……」 先に片づけなければいけない者がいる、許し難い恥辱をカーディナルに与えた最低最悪の男だ。 あの男を灰燼に帰す……それがカーディナルの最優先事項、他は全て小事、後回しでいい。 「……あの男の後で、ゆっくりとお仕置きしてやるからな、愚妹(セルリアン)!」 カーディナルは氷漬けにされていても、メルマリアが自分を的にしてストレス解消をしていったのをハッキリと見ていた。 一言感想板 一言でいいので、良ければ感想お願いします。感想皆無だとこの調子で続けていいのか解らなくなりますので……。 |